家族の思い出と未来を癒合させた再生の家

●2007施工

■施主の要望

<プロローグ>
室蘭の青い海を望む高台の住宅街に、Sさんが住み続けた家が建っていました。 その家は、S夫人のお父様が家族のために陣頭指揮をとって昭和32年建てたもの。
ゆったりとした天井高に格子天井、塗り壁など当時としては大変手の込んだ屋敷でした。「旧居は、父が素人ながら一生懸命に調べてあれこれ注文を出し建ててくれた家でした。
それだけに家族の愛着もひとしおでしたが、今のライフスタイルには合わない間取りで不便なところも多かったんです」と奥さん。長く住む間に、普段は使わない和室・仏間、応接間は物置代わりになり、贅を凝らした建具や欄間にも気を留める人もいなくなりました。
一方雑多な生活用品に埋もれた陽当たりの悪い北側の和室と茶の間で、奥さんと88歳になるお母様は肩を寄せ合うような暮らしを余儀なくされていました。 単身赴任中だったSさんが、室蘭へ戻ることが決まり、奥さんは新生活に向けて、「水まわりの手直しをするつもり」でリフォームを決意。
ところが調査してみると、思った以上に建物の傷みがひどく、建物の半分は建て直しが必要だとわかりました。 「そうなると、急な階段や収納の少なさ、寒さなど使い勝手の悪さが気になりだして、私たちの老後を迎えた際にも暮らしやすいと建て替えを決意しました。」 こうして、50歳の家は再生の道を歩みだしたのです。

before

■プラン決定のポイントと工夫

「家が変わっても、家族の思いでは大切に残したい」という Sさん家族の願いを反映し、使える既存の建具や部材、家具を新居に再利用し、全て使い切るプランを作成。 かつて北側にあった生活の場も、陽当たりの良い南側にゆったりと取りました。
そしてリビングの横にはお母様の部屋 (一般的な離れの落ち着いた老人部屋ではなく)を。「母は旧居でも家族のいる場所でいつも過ごしていましたから、改築で環境を変えたくなかったんです」。 「リビングとの間仕切りには旧居の襖を使うことにしました。 また、思い出のいっぱい詰まった縁側と和室は、位置は変わりましたが、同じ間取りで、同じ方位に配置し、建具・欄間はもとより床材・天井材・床の間材など全ての材料を使いきりました。
さらには旧居の古い家具・小物を随所に生かし、古いものと新しいものとの融合に細心の注意を払いました。 一方で、これからの快適な暮らしを考え、バリアフリーへの配慮から水周りへの開口部は幅広の建具を新設し、トイレや水周り、キッチンには使い勝手の良い最新設備を取り入れ、一年中快適な室内環境を保てれるように、断熱や暖房、換気システムにも独自のノウハウが生かされています。

after

■「住宅の再生は家族愛にあり」

室蘭のこのお宅では当初 50年前の住宅の造改修を考えていました。
依頼を受けた私は『民家再生』に近いリフォームに携われるチャンスと考え、これまで培った最新の耐震改修・断熱改修の技術を駆使して事に当たったのですが、地耐力・耐力壁ができないことから断念しました。
それでもなお、この家を何とか甦らしたいという深い思い入れを感じ、古い家具はもちろん、床材から天井材、全ての建具、手洗いの器具まで徹底して再使用できるように解体し、目に見えない構造・設備は最新の工法で施工しながらも、限りなく再現することを目的として工事を進めることにしました。
今回の建物は当時の家としては贅を凝らしたところがあり、今に残したいところがありました。しかしどんなに立派な家でも家族の愛着がなければ価値は生まれず残すことはできません。家族が育ち巣立った半世紀の歴史と、この家を建てくれた亡きお父さんへの愛情の深さが、住まいの再 生の道になりました。

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