豪州資本と共に「ニセコ」を世界ブランドに育てた地域工務店

豪州資本と共に「ニセコ」を世界ブランドに育てた地域工務店

ニセコ・ヒラフ地区に建つ別荘建築「雪影」。ちなみに欧米人はネーミングに独特の表現を楽しむ習慣がある。漢字での「雪影」という名付けをCOOLと感じるのだそう

みなさん、こんにちは。わたしは北海道で住宅雑誌「Replan」を創刊して最近、その事業活動の一線から退いた三木奎吾と申します。

関連記事》住宅雑誌Replan三木社長退任 新社長はSUMUS小林氏

雑誌の創刊は1988年。今年で36年目になります。この間は、高断熱高気密化の住宅革新が北海道を起点として大きな胎動を見せ、その導火線がやがて本州以南にも波及して行った時期です。この動きはなによりも地域全体の願いであり、さらにその中核が地域に根ざした工務店・建築家・行政・研究者など、まさに地域の総力を挙げた動きだったことに、わたしども住宅雑誌としても大いに触発され、ともに盛り上げたいと願ってきました。

また、そういう「戦い」の協働者として活動できたことは無上のよろこびでした。その結果、北海道ではすでに業界全体として基本的な性能レベルは一定線を越え、ユーザーが住宅会社を選択する際、住宅性能のレベル差を考慮に入れる必要性は少なくなっています。

北海道では住宅性能のレベル差は如実にさらけ出され、「本物」しか残ることができません。

しかし、本州以南では「なんちゃって」高断熱がまかり通っているのも現実。

北海道全体の住宅ステージは、住宅性能の格差による「淘汰」の次の段階へと踏み出していると言えますが、その実情や、各ビルダーがそれぞれ目指している動きにはさまざまな発展方向があります。

以前から繋がりのあった新建ハウジングDIGITALの編集者から、こうした状況をふまえて、今後、本州以南の住宅業界人はどのような戦略をもって行動をおこすべきか、というシリーズテーマが示されました。そのことの正否も含めてさまざまな見方・意見があろうかと思います。北海道と本州以南の住宅シーンを見つめ続けきたわたしに、このテーマは「響いて」きました。

そのようなテーマ意識で業界動向を掘り下げて探究してみたいと、比較的に自由になった立場もあって、今回キーボードに向かっている次第です。

世界の最先端リゾート「ニセコ」の躍動と工務店

オーストラリア不動産資本が即採用して突貫工事で建設したニセコ「ヒラフハウス」外観。SUDOホーム「リトルハウス」をベースにした豪州資本のコンドミニアム建築

住宅性能の大発展がこの間進行したと書きましたが、同時にこの時期の北海道にとっての大変化は、ニセコ地域へ世界のリゾート資本が集中してきたことでした。世界有数の「パウダースノー」が得られるウィンターリゾートとして、欧米人社会がいちはやく着目したことでしょう。

そしてこのニセコの世界デビューには、地域工務店、それも高断熱・高気密住宅運動を最初期から推進した企業が大きく関わっていました。

住宅性能の要件が満たされた“NEXT”としては、このような地域の価値を高める創造力、総合的プロデューサー能力が試されます。連載第1回としては、かねてからこの側面について取材したいと考えていたので、北海道の胆振(いぶり)地域を企業基盤とする地域ビルダー・SUDOホームを取材してきました。

同社は北海道の南西部・室蘭市に隣接の「伊達市」に本社を置く企業。創業から100年を超え、創業者は近隣の「豊浦」の神社建設でその技を発揮した宮大工です。100周年記念写真はその豊浦神社鳥居前にスタッフが神妙に整列した1枚。誇らしく凛々しい作り手魂。

創業100周年記念集合写真。初代須藤幸次郎棟梁による北海道虻田郡豊浦町「豊浦神社」

また、北海道だけでなく、SUDOホーム関東として、千葉・埼玉・茨城でも注文住宅の設計施工を展開しています。

同社は、ニセコの豪州資本によるスキーリゾート開発の動向については、当初はじっくり構えていたといいます。同エリアは「日帰り工事圏内」であり、地域ゼネコンとして競争優位条件はあったのですが、ニセコの雪質に感動してスキーリゾート開発を手掛けようとしたのは、オーストラリアの不動産事業者でした。彼らの活動初期には、商習慣での国際間の齟齬から資金回収できずに地元建設会社が倒産する事態も引き起こされていたからです。

同社は、そもそもの人事面を含めて、準備を重ね周到に進めていきました。最初の接触時から英語圏ビジネスに習熟したスタッフが同行して商談に臨みました。彼らもそういう準備万端の地域企業に対して、十分ビジネスパートナーたり得ると判断したようでした。

欧米圏企業との対応では、日本的建設工事ビジネス慣習では通用しない部分があります。北海道地域の作り手をして、こういった周到な準備は要諦だったといいます。まずは契約時点での誤解の危険性を回避し、相手の建築マインドをしっかり把握すること。十分な対応力を磨いてからことにあたったことは大きかったと思います。

新住協「2.5×6間」プランをストレートに評価する建築世界標準

こうしてオーストラリア不動産資本・北海道トラックスリゾートプロパティーズ(北海道虻田郡)との連携を開始した同社では、同時に以前から鎌田紀彦先生(新⽊造住宅技術研究協議会・代表理事)の「新在来工法」の実験探究にもその初期から参加していました。

同社ではどうしても内部腐朽を惹起する木造住宅に絶望して、先代社長当時、住宅建設から手を引いていました。しかし、鎌田先生の挑戦によって内部結露から無縁な木造建築技術が開発されました。その後、実験住宅づくりにも積極的に呼応していきます。さまざまな試行錯誤の末に、「2.5×6間」プランの合理性に着目して、それを徹底的に進化させていきました。

そのモデル住宅を伊達市内で建築公開してからほどなく北海道トラックス社のトップ、サイモン・ロビンソン氏が見学して直感。「これはわが社の事業企画に最適だ!今すぐにニセコに作ってくれ」と2005年の10月末に言われたのだそうです。ご存知のように北海道ニセコは積雪が早く工事期間としては非常にタイトな日程。

しかしこの突貫工事の結果、欧米人の高い評価を受け、翌年からのリゾート住宅受注は一気に9棟完売という実績を挙げました。さらにその後継モデルも大好評で、年々倍々ゲームで完売していくことになります。日本人が考えた合理的間取りプランと実際の住宅性能、住み心地によって、圧倒的な欧米人たちからの評価を獲得していったのです。

地域ビルダーとして、リゾート物件では完全な自由設計よりも合理性が優先することが身を以て知らされ、さらに鎌田研究室との真摯な開発努力が大きな結果を導き出したと言えるでしょう。

写真と間取り図解、そして建築データなどで、欧米人の心を完全にワシづかみにしたその合理性・性能的安定性をご確認ください。

豪州不動産資本によるディスプレイハウス「ヒラフハウス」内観(日本的にはモデルハウスだが、かれらはこう呼ぶ)。「リトルハウス」がベースとなっている
伊達市に建つSUDOホームの企画住宅「リトルハウス」
「リトルハウス」の間取り図・平面図

●建築データ
構造規模/木造・2階建て
延床面積/82.8m2(約25坪)
<外部仕上げ>
屋根/ガルバリウム鋼板フラットルーフ葺
外壁/防火サイディング
建具/玄関ドア:木製輸入ドア、窓:木製サッシ(トリプルガラス)
<特徴的な内部仕上げ>
床/パインフローリング
壁/ケナフウォール(構造現し(真壁))
天井/ケナフウォール(構造現し)
<断熱仕様>
基礎/外断熱スタイロフォーム75mm
壁/高性能グラスウール24kg90mm
屋根/高性能グラスウール24kg200mm
●工事期間/2002年2月~4月(約2ヵ月)
●工事費用/約1200万円(1BR本体工事)

そのように同社のニセコでの躍動はスタートしたのですが、その成功要因は非常に多面的であり、1回では書き切れません。そのあたりの「深掘り」について、次回以降でじっくり解説させていただきます。

新住協の鎌田紀彦氏にもこの「リトルハウス」の基本コンセプトについて面談取材しました。

「現状が到達点とは決して言えない。いま、住宅性能の進化運動は停滞局面に入っている。そこを突破していく必要がある」
鎌田先生が”問題提起”した、その内容も含めて、次回以降に触れていきたいと思います。

次号へ続く

北の国から その先の住宅道—北海道より(掲載元)

Unauthorized reproduction prohibited. (無断転載禁止)